「落語に正しい聞き方とかマニュアルはないと思うんですよ。
初心者も楽しめると思います」
落語界の人気スターが年に一度、開催する『夢の三競演』
恒例の“お三方インタビュー”、第2弾は桂南光!
桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という一門も異なれば、入門年も年齢も違う上方落語の“ビッグ3”が一堂に会し、その年の集大成的高座で魅せる大阪の冬の風物詩『夢の三競演』。ぴあ関西版WEBでも恒例となったお三方インタビューでは、師匠それぞれの2013年を振り返ってもらいつつ、間もなく迎えんとする『夢の三競演』に向けての心境を探ることに。続いては桂南光にインタビュー。落語初心者必読! 職人技の光る話芸で聴かせてくれる南光に、ネタや高座の話はもちろん、落語の楽しみ方も聞いた。
――今年は、国立文楽劇場での独演会を始められました。
桂南光(以下・南光)「楽しくやれましたから、ずっとやっていこうと思ってるんですよ」
――何か始めるキッカケがあったんでしょうか?
南光「3年前から(豊竹)英大夫さんに、義太夫をお稽古してもらってて。去年からは発表会にも出してもらってるんです。それでドンドン浄瑠璃にハマってきて、できたら国立文楽劇場の床(ゆか)に出て語りたいという野望をもったんですね。あそこは、ホールは借りられるけど、床の部分はなんぼお金を払っても、プロの方、玄人の人しか上がれない。でも、あそこに座ってクルッと回って出ていきたい。目標は、あそこに座りたいという」
――まさに、落語の『寝床』ですね。
南光「そのためには文楽劇場で会をやっといて、と思てね。文楽劇場に足を運んだこともない人もおるし、あそこにあるのも知らん人が方も多いですから、橋下さんとは反対に、文楽をもっと大勢の人に知ってもらってと。今年は『寝床』をやりましたけど、70歳ぐらいには落語もし、ちょっとさわりだけ床から出てきて…。そのために文楽に貢献しようと(笑)」
――あの独演会には、そんな壮大な野望が隠されていたんですか!?
南光「野望というか道楽なんですけどね。だから、来年は『胴乱の幸助』とか『軒付け』とか義太夫に絡ましたネタをやって、と。文楽劇場の床に出るためのホップ、ステップ(笑)」
――近年は、江戸に渡った噺を再び上方流に仕立て直すなど、新たな世界を開拓しておられます。
南光「こないだは『碁どろ(碁盗人)』というのをやりましたけど、年4回の『新世界南光亭』で2回ぐらいはネタ下ろしをしてるかな。去年の取材で『火焔太鼓』をやるて言うてたでしょ。今年の『三競演』では、できたら『火焔太鼓』をやろうかと思てるんですよ」
――南光さんの『火焔太鼓』は大阪を舞台に、庶民の夫婦にスポットライトを当てて、上方の色に染めて演じられています。
南光「道具屋のおっさんが、ちょっと上方には稀な間抜けでね。落語作家の小佐田(定雄)さんが書いてくれた本でやってるうちに、そういう風になってきたんです。小佐田さんも『こんな人、あんまりいませんね。喜六とはまた違うし』と。今は、間抜けやけど人が良くて、という人物を作り上げようとしてるところなんですよ。でも、養子としてはダメやけど、そういうところが可愛いと思ってる妻の気持ちをまだ出せてなくて。出しすぎてもいかんねんけど、微妙にそれを感じて、聞き終わった時にええ夫婦やなと思てもらえれば」
――現在も、深化していると。
南光「まだ色々変えたりしてるんですよ。私は普通はダッーと稽古して固めていって、というやり方をしてるんやけど、今回に関しては全然それをしてなくて。亡くなった朝日放送の市川(寿憲)さんも、『あのネタはそれがいいんちゃいます』みたいに言うてくれはってね。だから、普通やったらマクラも入れて40分ぐらいあるんですが、マクラも短めにしてトントンといったから20分でもやれるんです。伸縮自在」
――今まで、そんなネタはなかったんですか?
南光「なかったですね。全部、師匠とか先輩方から稽古してもらったのを元にしてやってるんですけど、『火焔太鼓』に関しては全くゼロから小佐田さんと話して書いてもらって。だから、自由にやりやすいようにできるかなと思います」
――そういうネタ作りのパターンは、これから増えてきそうですか?
南光「『居残り左平次』も、そういう風な感じになっていると思います。あとね、淀屋橋を作った“淀屋”ってあるでしょ。徳川家康の時代から何代も続いてるねんけど、幕府に潰されて。実際に淀屋は潰されたけど、ちゃんと鳥取県に残してたんですよね。淀屋はすごいんですよ。たまたま、『ちちんぷいぷい』の『昔の人は偉かった』のコーナーで河田アナウンサーが鳥取に行きはって。それを見て『へえー、そうなんや』と思てたら、『謀る理兵衛』という淀屋を題材にした本が出てると知ってね。 “丹生屋”という名前に替えて、松本薫という倉吉の人が書いてはるんですよ。読んだら、メチャおもしろい。淀屋は『雁風呂』に名前ぐらいが出てくるねんけど、だいたい落語に出てくるのは鴻池さんやし、『火焔太鼓』では住友さんにしてるんですよ。で、淀屋とか金持ちばっかりが出てくるような、ちょっと我々とは価値観の違うような人達のネタを書いてくれませんかと、小佐田さんに言うたら『かしこましました。考えます』と。また違うネタができるかも知れませんな」
――最近は、人情がかった噺が多いような気もするんですが…。
南光「そうでもないです。ただ、昔は人情がかった噺は笑いが少ないから、笑いがある方がいいかなと思ってたけど、今は笑いがなくても全然やれる気がしてきて。気恥ずかしさも還暦を越えてなくなってきたし、やりたいものをやってます。だって、あれをやろう、これをやろうと思ててもいつ死ぬや分かれへん。だから、来年は絶対『百年目』をやります」
――『百年目』は桂米朝師匠の十八番。それだけに、ネタへの思い入れは格別なのでは?
南光「やりたいけど、なかなかやれない。やってる人はいっぱいありますけど、米朝師匠の『百年目』を超えたのは聞いたことないしね。何年か前にやろうと思たけど、やっぱりムリやなと。でも、『米朝よもやま噺』に出た時に、師匠に『やったらええがな』と言ってもらったんでね。ただ、米朝師匠をお手本にはしますけど、同じようにはしないです。何でも難しいけど、噺の中では一番難しいんじゃないですか。若い人がやれるネタじゃないと思うねんね。番頭もできて、あの旦那もできてというか。すごく説得力のいる噺なんですよ。その当たりがようできてるなぁっていうか。稽古は前からしてますけど、予定では来年6月の動楽亭でやろうかと思てます。こんなんいうたら絶対やらなアカンもんなぁ(笑)」
――来年の南光さんにも目が離せませんが、年末の『三競演』も楽しみです。この会は、ご自身の中にとってどんな落語会ですか?
南光「別に初めから構えたりせんと、みんなで和気あいあいと楽しくやってます。3人が何かで寄ろうということがあんまりないんで、祭りみたいなもんかな。久しぶりに会っても全然変わらないですからね。誰かが死んだら辞めるやろうなと思てましたけど、あの2人もまだしばらく死にそうにないしね。ますます元気やから。たぶん鶴瓶さんは、あのネジ持ってくると思いますよ。女の子が欲しがる言うてました(笑)」
――今年で『夢の三競演』は10周年。その間、変わったと思われることは?
南光「最初の頃は、ずっと落語を聞いてる人と、落語は聞いたことないけど3人を見にいこかみたいなお客さんがいて、アンバランスな感じは何回かありましたね。今は、それは全然ないと思います。リピーターも沢山いてはるし、『三競演』やから見にいくという人もいますからね。だから、今は三人会のお客さんですわ」
――では、ご自身で変わられたところはありますか?
南光「別に変わらないですね。変りたいとも思わないし、今から特別なものになろうとも思わないし。噺家としての目標も何もないですしね。別にうちの師匠や米朝師匠を目標にしても、そんな人にはなれないし。私は基本的に自分が楽しくなかったらやらないのでね」
――鶴瓶さんは、『三競演』は刺激があるから続いているんでは、と言っておられました。
南光「私は2回目ぐらいまで刺激があったんやけど、すぐに慣れる方なんですわ(笑)。だって、別にあの人らと戦うという気はないし。落語というものはそういうもんじゃなくて、3人でお客さんに楽しんでもらえばいいわけやからね。まして自分だけウケようとか、変わったことしようとか、そんなんも思わない」
――ズバリ、『三競演』の楽しみは何でしょうか?
南光「打ち上げ(笑)。3人で話ができるからね。落語の話もするし、女の話もするし、今回は『半沢直樹』の話もするのかな。3人で落語会をするのもありやけど、日常のおっさん3人の会話が楽しいんじゃないですかね。個性はもちろん違うし、考え方も違うねんけど、これはOK、これはダメみたいな、人間としての根本的な価値観が似てるんでしょう。あの2人を尊敬してますし、好きやから。それが長続きの理由ですかね」
――最後に、落語をまだ聞いたことがないという方に、何かアドバイスをいただけますか。
南光「『初心者にはどんな落語がいいんですか?』っていうけど、とりあえず聞きにいかんと分からないし、聞いたら『私はこの人の噺がいい』というのがありますからね。正しい聞き方とかマニュアルはないと思うんですよ。お能や文楽、歌舞伎なんかは物語とかが分かってないとついていけないというのもあるけど、落語にはそれはないので。だって小学生が聞いても分かるわけですからね。時代的に古い言葉は分からないというのはあるけど、日常の言葉でしゃべってるもんやから。逆に、よく聞いてる人は『あれっ、ここのとこ抜いたな』とか、『間違うてるんちゃうか。トチリよったんちゃうか』とか思うてる人があると思いますよ。そういう意味では、初心者の方が楽しめると思います」
(2013年11月14日更新)
Check
桂南光
かつらなんこう●1951年生まれ、大阪府出身。1970年、二代目桂枝雀に入門し、“べかこ”に。1993年に三代目桂南光を襲名。本年から国立文楽劇場での独演会もスタートした。テレビ番組『ちちんぷいぷい』(MBS)、『大阪ほんわかテレビ』(YTV)などにレギュラー出演中。
夢の三競演2013
~三枚看板・大看板・金看板~
11月16日(土)10:00~一般発売
Pコード:432-669
※発売初日はチケットぴあ店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9560(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。
▼12月24日(火)18:30
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
全席指定-6300円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局
[TEL]06-6371-0004
11月16日(土)10:00~一般発売
『夢の三競演』演目一覧
※登場順
2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』
2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』
2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』
2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』
2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』
2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』
2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』
2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』
2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』